アフリカ、ヨーロッパのHIV/AIDS流行の現状と動向

慶應義塾大学医学部 田中公一朗

はじめに
 HIV/AIDSの流行は世界的に全大陸に広がり続けている。世界の成人HIV/AIDS感染者推定数は、1990年の1000万人から1996年中期には2550万人へと2倍以上に増加した。  
 最も多くのHIV感染者が見られるのがサハラ以南のアフリカで世界合計の68%に達する。南および東南アジアでは18%であり、先進世界の感染者総数の2倍以上である。
 その中で、ヨーロッパとアフリカについてのHIV/AIDS流行の現状と動向について考察する。

<ヨーロッパ>
ヨーロッパ地域には50ヵ国におよそ8億5000万人が住んでいる。ヨーロッパのAIDS流行の状況については、東ヨーロッパと西ヨーロッパに単純に分けることでは説明できず、複雑なパターンおよび動きがあることを示している。しかし、東ヨーロッパと西ヨーロッパの間には流行開始の時期と蔓延に大きな差があり、今回は古い政治的な分類を用いた。
AIDSサーベイランスから得られた長期的傾向
 この地域には、1995年末までに15万4866名の成人/青年、および6060名の小児を含む累積数16万982のAIDS症例が報告されている。2万6139名のAIDS症例が1995年に報告されたが、1994年の報告数の2万5986名を1%弱上回っただけである。
過去2年から3年にわたって、AIDS罹患率は西ヨーロッパ北部のいくつかの国々において安定化してきている。対照的に西ヨーロッパ南部の国々ではAIDS流行がよこばいになったという兆候はない。
 中央および東ヨーロッパ、および中央アジアでは、HIV/AIDSの流行はごく最近のことで、AIDS罹患率は西ヨーロッパよりもかなり低かった。しかし、いくつかの国では、主に注射薬物濫用者と関連している急速なHIV蔓延が示されている。ポーランドとユーゴスラビア連邦共和国では注射薬物濫用者の症例数が最も多く、またAIDS罹患率も急速に上昇している。
 1990年以前には、AIDS症例は男性と性行為をする男性で診断されていた。しかしながら、1990年以降、本地域で年間診断される症例で注射薬物濫用者が一番高い割合を占めるようになった。1995年12月までに診断された2万2494名の異性間性交渉によるAIDS症例のうち、他の地域出身のものが30%に相当した。感染パターンの変化には女性症例の割合の増加が伴なっており、1986年の11%から1995年の20%に上昇した。1995年にAIDSと診断された女性のほとんどは注射薬物濫用者、あるいは異性間性交渉で感染したものであった。性交渉の相手が注射薬物濫用者であることは少なくない。
 小児における流行は、女性における流行と密接な関係がある。ほとんどの国では、小児のほとんどは母子感染で感染している。
HIV罹患率と有病率
 西ヨーロッパの国々においては、HIV罹患率の過去の傾向を再構築するとHIV感染発生のピークは通常1980年代の中盤である。同じ方法によって、異性間性行為感染者におけるHIV有病率が、低いものの着実に上昇していることが示された。注射薬物濫用者の傾向は、もっとばらつきが大きく、複雑である。AIDSの出生コホート分析では、若年成人の注射薬物使用によるHIV感染が、フランス、イタリア、スイスでは、90年代初期に減少したが、同時期にスペインとポルトガルでは増加したことが示唆された。
 東ヨーロッパの国々では注射薬物濫用者におけるHIV感染の急激な増加が1980年代の後期に旧ユーゴスラビアとポーランドで観察された。最近まで、一般集団のさまざまなグループを系統的に検査するHIV報告システムでは、HIV罹患率の増加傾向は認識されていなかった。しかし、最近ウクライナ共和国で黒海に面した都市における注射薬物濫用者の新規感染の急激な増加があったことを報告している。
現在と未来の傾向
 注射用薬物の使用によるHIV感染は地域の流行の動きに大きな役割を果たし続けてきた。このような感染が、罹患率が高い西側諸国のいくつかの国でAIDS症例のほとんどの原因となっており、また同じ国の異性愛の成人や小児で発生したAIDS症例にも強い関係がある。1992年以来ポルトガルで観察されているAIDS罹患率の急速な上昇は、主に注射薬物濫用者症例の急増によるものであった。東ヨーロッパの国々で、現在までに報告されているより深刻なHIV感染発生も静脈麻薬濫用者と関連していた。
 本地域においては、過去10年にわたりAIDS患者のなかの同性間の性的接触の割合は着実に減少している。これは主に薬物濫用者の間での進行が急速に進んだことと、増加速度は低いが着実に異性愛AIDS症例が増加したことによる。MSM(Men who have sex with men)の間でのAIDS罹患率はほとんどの西側ヨーロッパで中等度に減少するか、あるいは極めて安定しているが、ギリシャ、ポルトガルでは、依然として上昇している。バルト諸国、スロベニアとハンガリーでは、MSMが、男性でこれまでに報告されているHIV感染の大多数であった。MSMは、ハンガリーで過去5年間に報告されたHIV感染者171名中77%に相当する。ロシアでは、男性同士の性行為が1994年12月までに報告された成人男性のHIV/AIDS症例 587のうちの53%における感染経路であった。スロバキアとスロベニアでは、同性愛者が集まる場所で実施された、匿名血清検査とは無関係な唾液検査で得られた1996名の結果では約3%の有病率が示され、その集団におけるHIVの流行の更なる蔓延の可能性があることを示唆された。
 さらに、イギリスからの情報では、1980年代後期に認められた男性同士間の感染の減少傾向が1990年以降に逆転上昇を始めたようである。注射薬物の使用をしない異性愛者のAIDS症例とHIV感染の相対的な上昇は非常に重要であるが、これはMSMと注射薬物濫用者がヨーロッパ地域の流行の最も重い責任を担い続けているという事実を覆い隠すものであってはならないと考えられる。

<アフリカ>
 世界のHIV感染者総数の約60%が居住するサハラ砂漠以南のアフリカには、現在アフリカにおける成人及び青年のHIV感染者の90%、1330万人のHIV感染者がいる。サハラ以南のアフリカのほとんどの地域では女性と男性の15-24歳の群において、新規のHIV感染乳児300万人の内、90%以上がアフリカで誕生した。これらの小児の多くは、典型的にAIDSを発症し、数年の内に死亡する(図1、2)。
 この地域の18カ国には、少なくとも10万人のHIV感染者が存在する。中央及び東アフリカには、アフリカ大陸の現在の全HIV感染者の37%が存在する。2番目のグループの南アフリカの国々には、その地域の成人及び青年HIV感染者総数の15%が居している。他のサハラ以南の国々(ほとんどが西及び中央アフリカ)では、HIV流行は最近流行の中期を過ぎところであるが、妊娠検査中のために都市部の医院に通院する女性の1-10%がHIVに感染している。HIV-1の蔓延が増加しているのとは対照的に、HIV-2の有病率は西アフリカにおいてむしろ安定したままである。これはHIV-2に比較してHIV-1の感染力が強いためと考えられている。
都市部および交易の中心地では一般に農村部よりHIV感染の有病率はかなり高いが、農村部のいくつかの集団ではHIV感染率が着実に増加している。あからさまな対立、環境破壊、自然災害、あるいはあまり激しくない戦争によって、何百万人ものアフリカ人は居住地を離れ、ある状況においては、生き延びるために安全でない性行為を増加させるような事態になった。人口移動と都市化によっても男性が優先するCommunityの数が増加し、売春への参加が増加した。
 いくつかの国々における人口学的な調査では乳児と幼児の死亡率の顕著な増加が既に認められている。ザンビアとジンバブエの状況から類推すると、AIDSは小児の死亡率を2010年までにほぼ3倍に増加させる。出生率が高いので、人口は一般的には増加を続けるが、生産年齢人口が決定的に減少するであろう。


文献
1) J. Mann, and D.Trantola, ; AIDS in the World , Oxford University Press, 1996
2) J.Killewo, K. Nyamurekunge, A.Sandstorm, et al.: Prevarence of HIV-1 infection in the Kagera
region of Tanzania; A population-based studyモ AIDS 4(1990): 1081-1085.
3) D.Serwadda, M.J Wawer., S.D.Musgrave, N.K.Sewankambo, .E.Kaplan and R.H.Gray:
メHIV risk factors in three geographic strata of rural Rakai District, Uganda,モ
AIDS 6(1992): 983-989.

4) AIDSCAP/UNAIDS: The Status and Trends of the Groval HIV/AIDS Pandemic, 1996

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